研究内容

私の専門は方言学です。

 方言というと田舎のお年寄りが話す言葉と思っていませんか。いえいえ、そんなことはありません。
 方言は、東京にも群馬にもちゃんとありますし、若者だって話しているのです。今、あなたが話している言葉だって、立派に方言なのです。 「そんなことはない、私の言葉は標準語だ」と思ったかもしれません。はたしてそうでしょうか。
 例えば、皆さんも一度は行ったことのあると思いますが、ハンバーガのお店 McDonald'sを皆さんは何と言いますか?  もし、「マック」と言っていれば、それは立派な東日本方言です。西日本では「マクド」と言います。 例えば、これから学校の授業が始まるとします。当番が号令をかけます。「起立、●●、礼、着席」。●●は何ですか?  もし、「注目」なら、それは立派な群馬県方言です。例えば、小学生の頃、教室の花などに水をやったり植物の世話をしたりする当番は「水●●当番」ですか?  もし「水くれ当番」なら、それもまたしても立派な群馬県方言です。ちなみに標準語だと「水やり当番」です。いかがですか。これでもあなたは自分のことばは標準語だと言えますか? このように方言には地域性があります。
 また、学校で友達と話すとき、家で家族と話すとき、教科書に書いてあるような話し方はしませんね。 友達に向かって、「明日はどのように過ごしますか? よかったら一緒に遊びませんか?」とか、親に向かって「ただいま戻りました。今晩の夕飯のおかずは何でしょうか?」とかと話しませんね。 私たちが普段に話す言葉は改まった言葉ではなく、くだけた言い方です。これも方言と呼びます。
 方言は人々の生活に密接に結び付いた言葉です。その言葉を研究することで、人々の生活、社会、歴史、ものの考え方など、様々なものが見えてきます。 また、方言を研究することで、日本語のルーツが分かったり、言葉がどのように変わってきてどのように変わっていくのかが分かったりもします。方言って本当に面白いですよ。

群馬の「新方言」を継続的に研究しています。

 新方言とは、
   若い世代に向けて使用者が増えている
   共通語とは認められない形
   地元でも方言扱いされる(くだけた場面・高くない文体で使用される)
 という3つの条件を満たす語形を指します。

 新方言は、共通語化が進む日本語にあって若い世代に新たに方言が生まれている証拠であり、全国各地で確認されています。
 また、新方言には東京型と地方型とがあります。東京型とは東京でも地方(群馬県)でも新方言の傾向を示す語形であり、地方型とは東京では使用されず地方(群馬県)でのみ新方言の傾向を示す語形をいいます。
 初めて群馬の高校生のことばを調べたのは、大学での井上史雄先生の授業に刺激を受け、新方言を卒業論文のテーマにしようと決めた1980年でした。それ以来、群馬を中心に、若い世代のことば(方言)を調べています。

方言の研究成果を分かりやすく一般の方々に紹介できないものかと考えています。

 群馬の方言というと「言葉が荒い」とか「べーべーことば」とかいろいろ言われますが、群馬の人なら誰でも知っているようでいて、「これが群馬弁だ」「これが群馬方言の特徴だ」となかなか一言では言い表せないものです。
 一方、群馬でも学術的な方言研究は以前から行われています。この研究成果を使えば、私たちの方言はうまく説明できそうです。ところが、学術的な研究となると取っつきにくくて難しくて、一般の人にはわかりにくいものです。
 そこで、この群馬の方言についての研究成果を小・中学生から研究者以外の一般の方にまで、なんとか分かりやすく伝えられないものか、と考えて試行錯誤を繰り返しています。
 方言研究は、地域の方々に言葉づかいなどをいろいろ教えていただいて成り立っている研究です。方言研究に携わる一人として、少しでも研究成果を地域の方々に分かりやすくお返ししなければならないと考えています。

敬語にも興味があります。

 私の尊敬する先生・井上史雄先生の本に『敬語はこわくない 最新用例と基礎知識』(講談社現代新書1999)があります。この本の題名のように、誰かに「おまえは敬語は怖くないのか」と聞かれたら、やっぱり、「コワイ」と答えてしまいそうです。
 敬語を正面から研究の対象とはしていませんが、いろいろな人の話すことばを聴いて、変わった言い方や表現方法をメモしたり集めたりしています。これも井上先生の受け売りですが、『日本語ウォッチング』(岩波新書1998)に敬語は最適です。

これからの国語教育に少しでも役に立てればと思います。

 大学卒業後、小学校、中学校、高等専門学校と国語科教育に携わってきました。私自身は、けっして国語の授業がうまい教員ではありません。ただ、幸せなことに、たくさんの素晴らしい国語の授業を見せてもらいました。私が今までに拝見した素晴らしい授業、教えていただいた知識や技術など、少しでもこれから教員を目指す方々に伝えていきたいと思います。